BYD Auto Japan 代表取締役社長 東福寺厚樹さん(以下、東):はい。私がBYD Auto Japanに入ったのが2021年8月なんですが、その時点で既に軽自動車の研究は始めていました。日本の軽市場でどんなクルマが売れていて、どのくらいの市場規模なのか、どういう要件が求められるのか。そうしたリサーチはもうしていたんです。
さらにBYDという会社は「Cool the Earth by 1degree」、地球の温度を1℃下げようということをミッションとして掲げています。「Technological innovations for a better life」、技術革新を通じてより良い社会を作ろうという考えと合わせて、BEVとPHEVの新エネルギー車を普及させていく。日本でも同じことです。
● 「BYDが軽自動車をやる」ことに、日本法人の社長は反対だった
中国の自動車メーカーBYDが、日本国内で電動軽自動車の販売を開始したことは、先週の試乗記でお伝えした通り(参考記事)。みんな大好き中国製、ということで賛否両論、喧々囂々。良くも悪くも大きな話題になっている。
BYD Auto Japanの東福寺厚樹代表取締役社長はしかし、当初BYDが日本専用の軽自動車を開発・販売することに反対していたという。
日本の新車市場で軽自動車が占める割合は大きく、4割に迫る勢いだ。そしてその市場は、スズキ、ダイハツ、ホンダ、日産・三菱の国内メーカーが長年にわたり熾烈なバトルを繰り広げる文字通りのレッドオーシャン。全長3.4m、全幅1.48mというサイズに、最高出力64馬力の自主規制もある。日本独自の規格に合わせて開発しなければならず、せっかく造っても海外への横展開は期待できない。こうした背景もあり、日本の実情を熟知した東福寺氏からすれば、海外メーカーがわざわざ新規参入などしなくても……というのが本当のところだろう。
だから中国本社から「BYDが軽自動車をやることをどう思うか」と意見を求められた際、東福寺社長は「やめておいた方がいい」と正直に答えたのである。
BYDはしかし、日本法人トップの反対を採らなかった。そして数年後、本当に軽自動車を造ってしまった。
なぜBYDは日本法人トップの反対を押し切ってまで、世界でも特殊な日本の軽自動車市場へ参入したのか。東福寺社長に直接お話を伺った。
フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):普通なら日本法人の社長が「やめた方がいい」と言えば、本社も少しは考え直しそうなものじゃないですか。しかも反対の理由は、至極もっともなことばかり。他の地域への横展開も期待できない日本専用車をわざわざ造って、スズキ、ダイハツ、ホンダと軽の大ベテラン勢とガチで張り合おうなんて……普通に考えたら「そこまでしてやる?」という話ですよね。中国本社は早い段階から日本の軽自動車を研究していたわけですか。
BYD Auto Japan 代表取締役社長 東福寺厚樹さん(以下、東):はい。私がBYD Auto Japanに入ったのが2021年8月なんですが、その時点で既に軽自動車の研究は始めていました。日本の軽市場でどんなクルマが売れていて、どのくらいの市場規模なのか、どういう要件が求められるのか。そうしたリサーチはもうしていたんです。
ただそれはあくまでも「リサーチ」で、本当にやるかやらないかは全然決めていなくて、私も入ってすぐに「BYDとして軽自動車をやるっていうのはどう思う?」と聞かれたんです。
F:そこで東福寺さんは「いや、やめておいた方がいいよ」と答えた。中国本社としては、日本の自動車市場をよく知る人を社長に迎えたわけだけれども、その人の最初のアドバイスが「軽はやめろ」だった。
東:そうなんです。やっぱり競争は激しいし、日本専用車になってしまうじゃないですか。これから販売網を作って、これから売っていこうというところに軽自動車を入れたって、いきなりワッと売れるものではない。ゼロから始めるのは非常に厳しいだろうと思ったんです。
● 「それならシーガルを持ってくればいい」という代案
F:そう思いますよね。何しろ軽は競争が厳しすぎる。だったらフィットとかヤリスくらいのサイズで、日本だけでなく欧州や東南アジアでも売れるクルマを造った方が開発費の回収もしやすくなる。わざわざ日本でしか通用しない小さな箱の中に入れる必要はないじゃないか、と。
東:その通りです。もっと汎用性のある小型車で、ヨーロッパでもアジアでも、場合によってはアメリカでも通用するようなクルマを造って、それを日本に持ってきたらどうかと。今のBYDのラインナップで言えばSEAGULL(シーガル)くらいですね。最初の頃は、そういう話をしていました。
F:でも中国側は「なるほど、それじゃやめましょう」とはならなかった。
東:ならなかったですね(笑)。その場で否定はせずに「そう?」みたいな感じで聞いていたんですが、軽開発の構想自体はずっと捨てずにいたんです。
大きく流れが変わったのは2023年10月のジャパンモビリティショーの時でした。王伝福総裁や取締役ら一行が来日されたので、マイクロバスを借りて、成田のホテルから東京の会場まで案内したんです。
F:空港から直接高速に乗らず、成田の街の中をマイクロバスで走ったと。成田はそれこそ軽だらけですよね。都心にいると軽自動車ばかりということは少ないですが、地方や郊外へ行けば家にクルマが2台あって、両方とも軽なんてのは当たり前。BYDご一行様も、事前のリサーチとは大きく印象が変わったのかもしれません。
東:変わったと思います。ホテルの駐車場にもいろんな種類の軽自動車が停まっていて、みんなバスから降りていって、人のクルマを見ながら「これはすごいな」とか、「こんな格好があるんだ」とか、「こんな色があるんだ」と言って、本当に熱心に見ていましたね。
F:世界最大のEVメーカーの総裁と役員連がゾロゾロとバスから降りていって、成田のホテルの駐車場で他人の軽を眺め回している。何ともユーモラスな光景です。
● 「ちょっとそこに入ってくれ」BYD幹部、アポなしでディーラー訪問
東:ホテルの駐車場だけじゃありません。高速に乗る前にもっと街の中を走ってくれと言われ、途中でマツダさんのディーラーが見えると、「ちょっとそこに入ってくれ」と。
F:まさかアポなしで……。
東:アポなしです(笑)。10人くらいでバッと降りちゃうんで、私が慌てて走っていって、名刺を出して、「あのスミマセン。BYDという会社の者ですが、ちょっとおクルマを見せていただけませんか」とお願いして。マツダさんだけでなく、複数のディーラーに入って見せてもらいました。販売店の方もあっけに取られていましたね。
F:すごいなぁ。すごい話だなぁ。「BYDです。すんません」と突然10人もゾロゾロやってきて、アングリ口を開けている店の人を尻目に軽を眺め倒して。しかもどう見ても、絶対にその店でクルマを買う客じゃない(笑)。何と言うか、今のBYDの勢いを表す、執念ともいえるような貪欲さを感じますね。
● 王総裁が、日産サクラのハンドルを握った日
軽参入の構想を一気に現実へと近づけたのは、他ならぬ日産のサクラだった。
当時、BYD Auto Japanの社員の一人が個人的にサクラを所有していた。東福寺さんは王総裁の来日に合わせ、その社員に「洗車して乗ってきてくれ」と頼み、実車を用意したという。
F:王総裁ご自身がサクラに乗ったんですか。
東:実際に乗られました。本人が運転して、「お、こんななんだ」と言いながら、すごく楽しそうにぐるぐる走り回っていました。そこで構想が確信に変わったんじゃないですかね。その日の夜に、王総裁と取締役のメンバーで集まって、ワッと打ち合わせをしたんです。でも私はそこには入っていません。中国側の幹部だけで。
● 日本法人の社長抜きで開かれた、中国トップ会議
F:なんと! 日本で会議をしたのに日本法人の社長ヌキで。その日は中国人幹部だけで「軽をやろう」という話がどんどん進んでいったんでしょうね。東福寺さんは反対派だから、「あいつを入れるとダメと言うから」と外されたのかもしれませんね(笑)。
東:そうかもしれません(笑)。昼には当時オープンしていたBYDのショールームにも寄ったんですが、王総裁が販売店の人たちに「日本で我が社の軽自動車があったらどうですか?」と聞くと、みんな口を揃えて「いや、あったら間違いなく売れますよ」とか言うんです(苦笑)。
F:販売店は新商品が欲しいから、そりゃそう言いますよね(笑)。東福寺さんからすれば、「お前ら簡単に言うけど、本当に売るんだろうな」という話ですよね。
東:そうです。本当にそうなんです。「軽く言ってくれるけど、本当に売るんだろうな?」と思いながら聞いていましたけど。「販売の現場でも売れると言っている」と話が一気に進んでしまって(苦笑)。
F:東福寺さんが止めたにもかかわらず、中国トップが「やる」と決めた。そこまでしてBYDが軽をやりたかった理由はどこにあるのでしょう。
東:「日本で事業をやる以上、日本での事業規模を大きくしたい」という思いが根底にあります。台数も欲しいし規模も欲しい。ラインナップも拡充させたい。日本の自動車需要の3分の1以上を軽が占めています。そこへしっかりEVを入れていこうという考え方です。
さらにBYDという会社は「Cool the Earth by 1degree」、地球の温度を1℃下げようということをミッションとして掲げています。「Technological innovations for a better life」、技術革新を通じてより良い社会を作ろうという考えと合わせて、BEVとPHEVの新エネルギー車を普及させていく。日本でも同じことです。
F:地球の温度を1℃下げる。そんなミッションが……しかしずいぶん大きく出ましたね。
東:まあ、大それた話ではあるんですけど(笑)。さらに言えば、軽自動車とEVは非常に相性がいいんです。軽は一般的に1日の走行距離が40〜50kmくらいの使われ方が多いので、それほど大きなバッテリーを積まなくても日常のニーズを賄えます。郊外や地方で使われるケースも多く、一戸建てで複数台所有という家庭なら、自宅に200Vの普通充電設備を設置してしまえば、帰宅してそのまま充電できる。軽とEVのマッチングは前々から非常にいいと考えていました。
● 中国の研究所に並んでいた、N-BOX、スペーシア、タント
F:なるほど。とはいえ、軽は特殊なクルマです。「やる」と決めるのと「造れる」のは全く別の話です。小さな箱の中に大人4人と荷物を収めて、スライドドアまで付けて、安全性も確保して、それを200万円台で売らなきゃならない。日本のメーカーが何十年もかけて煮詰めに煮詰めてきた、極めて特殊な商品です。
東:そうですよね。
F:それでもBYDはキッチリ造り上げてきた。少なくとも「日本の売れ筋の軽を真似て寸法だけ合わせました」、というクルマではない。剛性感は高いし、背が高いのに上屋がグラグラしない。こんな短期間でそこまでのものを造れたのはなぜでしょう?
東:軽自動車をやろうと決まる前から、じっくり研究はしていたんです。ベンチマーク用としてホンダのN-BOXやスズキのスペーシア、ダイハツのタントといった売れ筋の軽自動車は中国の研究所に並んでいました。
※X-PACK:床下のバッテリー部分に電動系の制御ユニットや充電器までまとめて収め、パックごと車体構造として使う、BYD独自の集積技術
● 使うか分からない技術も貯めておく、BYDの「引き出し」
東:BYDはプロジェクトが決まってから必要な技術を開発するというより、使うか使わないか分からない技術も含めて、様々な要素を事前に研究してたくさん持っているんです。いろんなカードを持っていて、商品を造る時に「今回はこれとこれを使うか」というやり方です。
F:使うかどうかも決まっていない技術を先にどんどん研究して、引き出しに貯めておく。そして商品を造る時に、その引き出しから必要なカードを組み合わせる。だから「日本で軽をやるぞ」と決まった時にも、ゼロから全部始める必要がなかった。引き出しから取り出せばよかった。
東:そうなんです。王総裁はもともとバッテリーのエンジニアですから、技術に対してものすごく貪欲です。使う時期が来るかどうか分からなくても、まず自分たちで技術をものにしてストックする。特許もちゃんと取っておく。だから「軽をやろう」と決めた時も、すぐにやれるだけの自信はきっとあったんだと思います。
BYDは2020年くらいまでは年間40万〜50万台くらいを販売するメーカーでした。でもそれ以前からバッテリーやプラグインハイブリッドをずっと開発してきて、技術の蓄積はたっぷりあった。そこに中国の新エネルギー車に対する政策的な後押しも重なって、2021年以降、一気に伸びていった、ということなんですね。
● 「バッテリーがむき出し」「中国製EVは燃える」は本当か
ラッコは「中国メーカーが日本向けに急ごしらえした軽EV」ではない。
日本の軽をじっくり研究し、一方で社内には(使うかどうかも決まっていない)技術をたっぷり蓄えた巨大な“引き出し”があった。そこに王総裁の決断が加わり、一気に商品化へ動いていった。
その結果として生まれたラッコは本当に安全なのか。ネット上で盛んに言われる「最低地上高が低い」「バッテリーがむき出し」「中国製EVは燃える」「情報を抜かれる」といった話は、どこまでが本当でどこまでがウソなのか。褒めるとお金をもらえるのか。
後編ではその辺りをシツコク東福寺社長に伺っていこう。
https://www.msn.com/ja-jp/news/other/ar-AA2ddZVt
2026年10月4日 [最新情報]
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BYD、商魂たくましい! 日本で伸び悩みそうだと認識した時点でプランBもスタートしていた! どうやらBYDマカオは「クルマの品質に厳しい日本でも高い評価を得ている」とアピールする戦略らしい。マカオだけでなく、遠からず同じ左側通行の香港でも販売を始めることだろう。さらにタイやインドネシア、マレーシアといった左側通行の国も考えているようだ。
その日本の誇る軽自動車を丸パクリして中国車が美味しくいただいていくパターンになりそうだ。
けど、そいつら買わねえからな
日本の社長はそれをわかってて中国本社はわかってなかった
郊外家庭持ちセカンドカー街乗り用なんてニッチすぎて数でねえだろ
そもそも軽自動車とか買わんだろ
欧州車ばっか買ってるだろ