安価 彡(゜)(゜)ワイは>>3や! | みんなの掲示板 Talk (トーク)安価 彡(゜)(゜)ワイは>>3や!IDなし
俺は自分の立場を何から何まで知っているんだぞ。どういう風に事が運ぶか言ってやろうか。
大将、息がつまる、沈んでいく、溺れそうだ。大将の目だけが水の上にある。ところで一体何が見える?
模造のブロンズ。物凄い! おい、君はきっと返答することを止められたんだな。じゃあもう言わない。
ただ、俺は嘘を吐かれたりはしないってことを忘れずにいてくれ。俺は状況を直視しているんだ。
(再び歩き出す)じゃ、歯ブラシはなし。ベッドもなし。決して眠ることがないからだね、無論?
ボーイ はあ。
ガルサン 外さ! この壁の向こうさ。
ボーイ 廊下が一つございます。
ガルサン 廊下の端には?
ボーイ 他の部屋に他の廊下、それに階段がございます。
ガルサン それから?
ボーイ それだけでございます。
ガルサン 君、休暇の日はあるだろう。どこへ行くんだ。
ボーイ ボーイ長をしております四階の伯父の所へ参ります。
ガルサン なるほど、それに気がつくべきだったな。電灯のスイッチはどこ?
ボーイ スイッチはございません。
ガルサン じゃあ何か、明かりを消すことはできないのか。
ボーイ 帳場の方で切ることもできますが、このフロアでは、ついぞ消したことがないように存じます。電気は使いたい放題で。
ガルサン なるほど。じゃ、目を開けて生きてるんだな。
ボーイ (皮肉に)生きると仰いますと……
(ボーイ退場)
おあいにくさま。フロランスは馬鹿な子だから、いなくなったってあたしはへいちゃらだわ。
ガルサン 失礼ですが、あなたは僕を誰だと思ってらっしゃるんです。
イネス あんたを? あんたは地獄の鬼よ。
ガルサン (はっとし、やがて笑い出す)そいつは愉快な人違いだ! 鬼ですって!
あなたは、入ってきて、僕を見て、こいつが鬼だ、とそう思ったんですね。途方もない!
あのボーイは馬鹿ですよ。お互いに紹介してくれるのが当たり前だ。地獄の鬼!
僕はジョゼフ・ガルサンといって、政治評論家、文筆家です。
本当のところは、あなたと僕は相宿なんですよ。奥さん、お名前は……
イネス (無愛想に)イネス・セラノ、未婚です。
だが、僕たちはきっとお互いうまくやっていける。僕は無口だし、あんまり動かないし、騒ぎもしない。
ただ、差し出がましいことを言うなら、お互いどこまでも礼儀をつくす必要がありますね。それが僕たちにとって一番いい自衛策ですよ。
イネス あたし、お行儀よくはありませんのよ。
ガルサン じゃあ僕が、二人分お行儀よくしよう。
(沈黙。ガルサンは長椅子に腰掛けている。イネスは歩き回る)
イネス (彼を見て)あんたの口。
ガルサン (夢から覚めたように)え?
イネス あんた、口を動かすのをよしたらどう? 鼻の下で口がこまのように回ってるわ。
ガルサン どうもすみません。気がつかなかった。
イネス それがいけないのよ。(ガルサンまた癖を出す)また! お行儀よくするなんて言ってて、顔の方はお留守なのね。
ここは、あんた一人じゃないんですよ。だから、恐がっているところを、あたしに見せ付ける権利はないわ。
(ガルサン立ち上がり女の方へ行く)
(間)でも、どうにかうつるのは、この方のだけね。
(沈黙)
(沈黙。ガルサンは真ん中の長椅子に腰掛け、両手で頭を抱える)
イネス エステルさん!
エステル ねえ、ガルサンさん!
ガルサン え?
エステル あなた、それはあたしの長椅子ですわよ。
ガルサン これは失礼。(立ち上がる)
エステル (冷淡に)つまり、あたしたちは好みが違うのね。そのことが、それで分かるわ。
(イネスに向かい)あなたはお好き、上衣なしの男の方が。
イネス 上衣があろうとなかろうと、あたし男はあんまり好きじゃないわ。
エステル (茫然と二人を見て)でも、なぜ、なぜあたしたちは一緒にされたんでしょう。
イネス (怒りを押さえ)何言ってるの、あんたは。
エステル あたし、お二人を見て、これから一緒に暮らすんだな、と考えてますの……あたし、友達や家の者に会えるつもりだったんです。
イネス 顔の真ん中に穴のあいたいいお友達とね。
エステル その人ともね。まるでプロみたいにタンゴを踊る人だったわ。でも、あたしたち、あたしたちはなぜ一緒にされたんでしょう。
偶然、そうでしょう。じゃ、一つ長椅子の場所を変えてごらんなさい。どうなるか。
それからあのブロンズ。あれも偶然ね。それからこの暑さは? この暑さは?
(沈黙)あいつらは、何から何まで計画してるのよ。細かい所まで念を入れて。
この部屋はあたしたちを待ち構えていたのよ。
エステル でも困るわ。この部屋は何もかも汚くって、感じが固くって、凹凸が多いんですもの。あたし凹凸のあるのは嫌いだったわ。
イネス (肩をすくめて)あんた、あたしが第二帝政式サロンに暮らしていたなんて思うの?
(間)
エステル じゃ、みんな計画的なのね?
イネス そうよ、みんな。あたしたちは似合いなのさ。
エステル あなたがあたしの前にいらっしゃるのは、じゃあ偶然ではないわけね。(間)あの連中は何を待ち構えているんでしょう。
イネス 知らない。でもあいつらは待ち構えているのよ。
だから間違いだっておこりますわよ。笑わないでちょうだい。
(ガルサンに)あなたも仰ってよ、何か。あの連中が、あたしの時にも間違いをしたかもしれませんわ。
(イネスに)あなたの時だって。いっそ、あたしたちは間違ってここに来たんだと思ったほうがよくありません?
イネス あんたの言いたいこと、それだけ?
みんなは僕のやることを見守っていました。「あいつ、やるかな?」とね。ところが僕はやったんです。
僕は徴兵を忌避しました。そこで銃殺されました。どこが悪いんです。どこが悪いんです。
エステル (男の腕に手をかけ)悪いことなんかありませんわ。あなたは……
イネス (皮肉にあとを付け足して)英雄ね。で、奥さんは、ガルサン。
ガルサン それがどうだというんです。僕はあいつを、いやしい稼業から救ってやったんだ。
エステル (イネスに)そら、ごらんなさい。そうでしょう?
イネス なるほどね。(間)どうしてあんたたちはお芝居するの。あたしたち、水入らずよ。
エステル (傲然と)水入らず?
(間。二人はこの話に考え込む)
ブランマントの通りでは、
立派な奥方おめかしで、
しゃなりしゃなりと集まった。
ところがどっこい首がない。
首は帽子ともろともに、
ばっさり落ちて転がった、
ブランマントの通りでは。
エステル ああ、そう、内側からね……でも、頭の中に起こることなんか、みんなぼーっとしていて、考えていると眠くなってしまいますわ。
(間)あたしの寝室には、大きな姿見が六つありますの。見えるわ。見えるわ。でも姿見にはあたしは見えない。
姿身は椅子や敷物や窓を映している……なんて空っぽなんだろう、あたしのいない姿見なんて。
あたし、お喋りをする時には、自分の姿がどれか一つの鏡に映るようにしたものだった。
あたしは、喋りながら、自分の喋るのを見ていたんだ。みんながあたしを見ているように、あたしは自分を見ていたんだ。
すると、頭がいつまでもはっきりしていた。(絶望して)私の口紅!
きっと歪んでついている。いつまでも、いつまでも鏡なしでなんか、いられやしない。
イネス あたしが鏡になってあげましょうか。いらっしゃい。ここへご招待するわ。あたしの長椅子にお掛けなさいな。
エステル そう思ってましたわ。幸い(ガルサンの方をちらっと見て)誰にも見られなかったからいいけれど。やり直しましょう。
イネス それがいいわ。いけない、唇の線に沿って。手を貸してあげよう。こうして、こうして、これでいい。
エステル さっきみたいに、ちゃんとなってます? さっき入ってきた時みたいに?
イネス もっといいわ。さっきより重々しくなって、凄みがあって。地獄の唇ね。
エステル あら! これでよござんすか。でもいやになっちゃう。自分で分からないんですもの。本当にこれでいいとお思いになって?
イネス よそ行きの言葉はおよしなさいよ。
エステル これでいいと思う?
イネス 美しいわ、あんた。
エステル でも、あなた、いい趣味もってらっしゃるの? あたしの趣味をもってらっしゃるの? ああ、じれったい、じれったい!
イネス 大好きさ!
(間)
エステル (ガルサンの方へ頭を振って)あたし、あの人にも見てほしいわ。
イネス ふん、あれは男だからね。(ガルサンに)あんたの勝ちよ。(ガルサン答えず)見ておやりなさいよ!
(ガルサン答えず)そんなお芝居なんかおよしなさい。あたしたちの言っていること、一言ももらさず聞いていたくせに。
そんなこと真っ平よ! あたしはあたしの地獄を選びたいの。
あたしは眼を皿のようにして、あんたを見て、しらふのままで戦いたいの。
ガルサン よかろう。どうせそうなるべきだったんだ。あいつらは、僕たちをまるで子供みたいに扱いやがった。もし男の中へ入れられたら……
男はじっと黙っていられる。だがあんまり欲はいうまい。
(エステルに近寄り、顎に手をかけて)どうだ? 僕が好きかい? さっき僕にウィンクしてたじゃないか。
エステル 触らないで。
悲劇が起こらずにすむかもしれない。互いに魔物の招待を見極めたら……さあ、なぜなんだ?
エステル 知らないと言ってるじゃありませんか。あの人たちは教えてくれなかったんです。
ガルサン 知ってる。しかし僕は自分自身のことは分かっている。君は一番に話すのが恐いのか。よし。じゃ僕から始めよう。(間)僕は相当な悪者だ。
イネス 分かってますよ。あんたは脱走したんでしょう?
結局あれなんだ。女房は俺に参りすぎていたんだ。分かる?
とうとう封印を取っちまった。貸間……あれ貸すらしいわ。ドアに札が貼ってある。馬鹿にしてるわ。
ガルサン 三人。三人と言ったね。
イネス 三人よ。
ガルサン 男一人に女二人?
イネス そう。
ガルサン そうか。(沈黙)男は自殺したの。
イネス 男? そんなことできるもんですか。もっとも、苦しみ足りなかったわけじゃないの。
いいえ、電車に轢かれたのよ。馬鹿馬鹿しい!
あたし、その二人の家に同居していたの、男はあたしのいとこだったの。
ガルサン フロランスって女は金髪?
ガルサン 別って何?
イネス それは後で言うわ。あたしは悪い女。つまり他人を苦しめなけりゃ生きていけないの。
たいまつね。人の心の中のたいまつね。一人ぼっちでいるとあたしは消えてしまう。
六ヶ月の間、あたしはその女の心の中で燃えたのよ。何もかも焼き尽くしたのよ。
するとある晩、その女が起き上がって、あたしの知らない間にガスのコックを開けちまったの。
そして、あたしのそばへ着てまた寝たの。
ガルサン ふむ。
イネス 何。
ガルサン なんでもない。ただ、あんまり綺麗な話じゃないね。
イネス そうよ、綺麗じゃないわ。それがどうしたの。
ガルサン いや、それでいいんだ。(エステルに)今度は君だ。何をしたの、君は。
エステル あたし、何も知らないって言ったでしょう。いくら自分の胸に聞いてみても……
ガルサン よし、じゃ助太刀してあげよう。顔がめちゃめちゃになった男ってのは、あれは誰?
エステル どんな男?
イネス よく知っているくせに。入って来る時あんたの恐がった男さ。
ロジェは「エステル、後生だ、お願いだ」と叫んでいたわ。あたし、ロジェが憎らしかった。
あの人、何もかも見てしまったの。バルコニーから見下ろして、湖水の面に波紋を見たんだわ。
ガルサン それから?
エステル それだけよ。あたしはパリへ帰るし、あの人はあの人で、好きなようにしてしまったの。
ガルサン 頭をぶち抜いたんだね。
エステル そう。でもそんなことするには及ばなかったのよ。
あたしの夫は何も気付いちゃいなかったんですもの。(間)あたし、あなたたちが憎い。
(突然むせび泣く)
ガルサン 駄目。ここじゃ涙は出ないんだ。
エステル あたしは卑怯者! あたしは卑怯者! (間)本当にあたし、あなたたちが憎い!
イネス (エステルを抱きかかえ)可哀想に! (ガルサンに)訊問は終わりよ。もうそんな鬼の面するのはおよしなさいな。
ガルサン 鬼の……(辺りを見回す)ああ何でもいいから鏡が見たい。(間)暑いなあ! (機械的に上衣を脱ぐ)失礼。
(着直そうとする)
借りたんだ! 借りたんだ! お入り! お入り! 遠慮しないで。女だ。男の方へ行って男の肩に手を掛ける……
なぜ早く電灯をつけないんだろう? もう暗くて見えやしない。あの二人、キスするだろうか。
あの部屋はあたしのだ! あたしのだ! なぜ明かりをつけないのかしら。もう見えやしない。
あの二人、何をひそひそ言ってるんだろう。あの人、あたしのベッドで女を可愛がるのかしら。
あの女は言っている。ちょうど正午で日差しが明るいって。じゃあたし、目が見えなくなったのかしら。
(間)お終いだ。もう何もない。どうやらこれで娑婆ともお別れらしい。もう逃げ道はない。
(戦慄する)何だか、体の中が空っぽになってしまった。これですっかり死んじまったんだ。
ここの人間になりきったんだ。(間)あんた、何言ってたの、あたしを助けるって話だったわね。確か?
ガルサン そう。
イネス 何するのに?
ガルサン 君には何にもとっちめられやしない。僕たちはメリー・ゴーランドみたいに追いかけっこをしているが、決して追いつくことはないんだ。
奴らは全てをちゃんと仕組んでいるんだよ。イネス、捨てるんだ。手を開いて放すんだ。でないと君は、僕たち三人を不幸にしてしまう。
イネス 誰、ピエールって?
エステル うぶな少年。あの子は、あたしのことを僕の泉だと言ってたわ。あたしを愛してたわ。
それにあの女が、あの子をホールへ連れ出しちまった。
何だって、なつかしいエステルだって? お黙り。あんたは、あたしの葬式の時、涙一つこぼさなかったじゃないか。
あの女、あの子に「なつかしいエステルちゃん」なんて言ったわ。あたしのことを言うなんて厚かましい。
さあ! 拍手を取って。あの女に、踊りながら喋るなんてこと出来るもんか。あら、何を……
いや、いや、あの子に言っちゃいや。あの子はあんたに上げる。連れてお行き。あんたのものにおし。
でもあれだけは言っちゃいけない……(踊りを止める)いいわ。こうなったらあんたのものにおし。
イネス エステル! 泉さん、あたしの水晶さん!
エステル あなたの水晶? 笑わせるわ。そんなことを言って、あなた誰を騙すつもり?
ねえ、みんな知ってるわ、あたしが子供を窓から放ったこと。水晶は地上で粉々に砕けてしまったのよ。
でも平気。あたしはもう肉体だけ---そしてあたしの肉体はあなたのものじゃない。
イネス さあいらっしゃい! あんたは望み通りのものになれるのよ。泉にだって、水晶にだって、
あんたはあたしの目の底で、なりたい通りの姿になれるのよ。
エステル あなた、あたしの体がほしい?
ガルサン うむ。
エステル それだけで十分よ。
ガルサン じゃ……
(彼女にのしかかる)
イネス エステル! ガルサン! 気が違ったの! ここにいるわよ、あたしが!
ガルサン (エステルの方へ戻ってその肩を抱く)さあ、唇を。
(間。彼はエステルの方にのしかかるが急に立ち上がる)
エステル (忌々しそうに)ふん……(間)あの人なんか気にしないようにって言ったじゃないの。
ガルサン あの女のことじゃない。(間)ゴメスの奴が新聞社にいるんだ。窓を閉めた。じゃ冬なんだな。
六ヶ月。六ヶ月になるかな、奴らが俺を……君、さっき言ったろう、僕はよく気が散るって。
みんな震えている。上衣を着たままだ。おかしいな、向こうがそんなに寒いなんて。
俺はこんなに暑いのに。さあ、いよいよ俺の噂だぞ。
エステル 長くかかるの? (間)せめて、何を言ってるのか言ってちょうだい。
ガルサン 何も。あいつは何も言ってやしない。ただ、あいつは人間のかすだよ。
(聞き耳を立てる)見事なかすだよ。ちぇっ!
(またエステルにより)さあ、今度は僕たち二人のことだ。君、僕が好きかい。
エステル (にっこりして)さあ、どうだか。
ガルサン 僕を信用するかい。
俺の声を抑えつけられたくなかったんだ。
(エステルに)で俺は……汽車に乗って逃げた。そして国境でとっつかまったんだ。
エステル どこへ行くおつもりだったの。
ガルサン メキシコさ。僕はそこで平和主義の新聞を出すつもりだった。(沈黙)さあ、何とか言ってくれ。
エステル 何を言えばいいの? あなたは戦争をしたくなかったんだから、あなたのしたことはいいことだわ。
(ガルサン苛々した身振り)ああ、あたし、どう答えていいのか分からない。
イネス ねえあんた、その人には「あんたはライオンみたいに逃げたのね」って言ってやればいいのよ。そのことがその人には辛いのさ。
ガルサン 逃げたとでも、発ったとでも、勝手に言うがいい。
窓から入り口へ、入り口から窓へ。俺は俺自身をつけねらった。俺のあとを尾行しようとした。
何だか一生涯、自分を訊問し続けたような気がする。だが、確かに俺のやったことはやったことだ。
俺は……俺は汽車で逃げた。これは確実だ。しかしそれはなぜなんだ。なぜなんだ。
結局俺はこう考えた。俺の死が決めてくれる。もし俺が綺麗に死ねば、俺が卑怯者でない証拠になるとな……
イネス で、あんたはどんな死に方をしたの、ガルサン。
ガルサン まずかった。(イネスが大声で笑う)もっとも、体ががっくりしただけのことで、
別にそれを恥とも思っちゃいない。ただ、全てが永遠に宙ぶらりんのままになってしまったんだ。
(エステルに)さあ、おいで。俺をじっと見るんだ。奴らが地上で俺の噂をしている間、
俺は誰かにじっと見てもらいたいんだ。俺は緑色の瞳が好きなんだ。
(ガルサン放そうというこなし)手をそのままに。ね、そのままにして動いちゃいけない。
あの人たち、今に一人一人死んでいくわ。あの人たちが何を考えたって平気よ。お忘れなさい。今はもうあたしだけがいるのよ。
ガルサン (手を引いて)奴らは俺を忘れやしない。奴らが死んでも、また他の奴らが来てあの合言葉を引き継ぐんだ。
俺は一生を奴らの手にまかしたんだ。
エステル あなた、あんまり思い過ごしよ。
ガルサン だってさっき君は言っただろう……
エステル あれは冗談よ。あたしは、ガルサン、男が好き、男らしい男、がっしりした、力の強い男が好き。
あなたは卑怯者の顎なんかしてやしない。卑怯者の口なんかしてやしない。卑怯者の声なんかしてやしない。
あなたの髪の毛は卑怯者の髪の毛じゃない。あたしがあなたを好きなのは、あなたの口のためよ。声のためよ、髪の毛のためよ。
ガルサン 本当かい。きっとかい。
エステル 誓えって言うの。
ガルサン じゃ、向こうの奴らもここの奴らも束になってかかって来いだ。エステル、この地獄から抜け出そう。
(イネス笑い出す。彼は言葉を切って彼女を見る)どうしたんだ。
エステル どうなさるの。
ガルサン 俺は行くんだ。
イネス (早口に)遠くへは行けやしないわ、戸は閉まってるのよ。
ガルサン どうしたって開けさせるんだ。
(ベルのボタンを押す。ベル鳴らず)
エステル ガルサン!
イネス (エステルに)心配しないで。ベルは壊れている。
ガルサン 開けさせるんだよ。(扉をどんどん叩く)もう君たちには我慢がならん。もう我慢ならんよ。
(エステル駆け寄る。彼は押し返す)あっちへ行け! 君の方がもっと嫌いだ。
君の目の中にうずもれるのは真っ平だ。君はじめじめしている。ふやけている。君は蛸だ、泥沼だ。
(扉を叩く)開けないか。
エステル ガルサン、後生だから行かないで。もうお喋りはしません。あなたをそっとしておくから行かないで。
イネスが爪をむき出したんですもの。あの人と二人きりでいるのはもう嫌。
ガルサン 自分で何とかするさ。俺が君に来てくれと頼んだわけじゃない。
ガルサン いや、行かない。
イネス エステル、あんたは? (エステル動かず。イネス笑い出す)じゃ誰が行くの? 三人のうち誰が?
道は開いてるのよ。なぜ行けないの。ふん、大笑いさ! あたしたち三人は離れられない仲なのね。
(エステル、後ろからイネスに飛び掛る)
僕は、そういう考えを、僕に関係したそういう考えを頭にもって、得意になっている君を、ここに残しておくことはできなかったんだ。
イネス あんた、本当にあたしを説得するつもり?
都合のいい話ね。さていよいよ危険な時が来て土壇場に追い込められると……
あんたはメキシコ行きの汽車に乗って逃げたのね。
ガルサン 僕は勇士であることを夢見たんじゃない。僕はそうなることを選んだんだ。人間は自分のなろうと思うものになるんだ。
イネス じゃその証拠を見せてごらんなさい。それが夢ではなかった証拠を。人間の望んだことを決めるのはただ行いだけよ。
ガルサン 僕は早く死にすぎた。僕の行為をやり遂げる暇がなかったんだ。
イネス 人間の死ぬのはいつも早すぎるか---遅すぎるかよ。でも、一生は、ちゃんとけりがついてそこにあるのよ。
一本、線が引かれたからには総決算をしなけりゃ。あんたは、あんたの一生以外の何でもないのよ。
ガルサン 畜生! 何でもうまく答える奴だ。
ガルサン でもそれは本当だ、イネス。君は僕の急所をつかんでいる。だが、僕も君の急所をつかんでいるのだ。
(彼はエステルにのしかかる。イネスは叫び声をあげる)
イネス ふん、卑怯者! 卑怯者! 女に慰めてもらうがいいわ。
エステル 喚くがいいわ、イネス、うんと喚くがいい。
イネス 似合いだわ! あの人の大きな手が、あんたの背中にべったりとくっついて、肌も着物もしわくちゃにしているのがあんたに見えたら。
あの人の手はねばねばよ。汗びっしょりよ。あんたの衣裳に青いしみがつくわ。
エステル いいだけほざくがいい! ガルサン、もっとしっかり抱きしめて。あの人、それを見て死んじまうから。
イネス そうそう、もっと強く抱きしめるがいいわ。二人の温かさを一つにして。恋っていいもんでしょう、ねえガルサン。
眠りみたいに、温かくって、しみじみして。でもあたし、あんたを眠らせやしないわよ。
(ガルサン気色ばむ)
エステル 聞かないで。あたしの唇を。あたしの全部はあなたのものよ。
僕がこの暖炉の前に立って、このブロンズを撫でて、みんなの視線を浴びるんだということを。
僕を食い尽くすみんなの視線……(急に振り返り)ふん、二人きりか。もっとたくさんだと思っていた。
(笑う)じゃ、これが地獄なのか。こうだとは思わなかった……二人とも覚えているだろう。
硫黄の匂い、火炙り台、焼き網……とんだお笑い草だ。焼き網なんかいるものか。地獄とは他人のことだ。
エステル あなた!
ガルサン (押しやって)うるさい。あの女が中にいる。あの女の見ているところでそんな真似はできない。